『12ヶ月のカイ』亀山睦実監督インタビュー

22.03.10

掛尾氏:亀山監督との出会いは、田辺・弁慶映画祭に「ゆきおんなの夏」を出品したときですね。

亀山氏:はい、2016年、第10回の映画祭です。

掛尾氏:それから、2020年に「マイライフ、ママライフ」でリベンジの挑戦で、観客賞を受賞しました。

亀山氏:2020年、オンライン映画祭になって田辺にはいけませんでしたが。

掛尾氏:「ゆきおんなの夏」と、2021年に完成した「12ヶ月のカイ」が普通の男女関係ではないので、亀山監督はそういう新しい関係性にこだわる人で、「マイライフ、ママライフ」で描かれる若い共稼ぎ夫婦の物語、女性の生きづらさというテーマはプロデューサーから提案された企画なんだと勝手に思っていました。

亀山氏:映画制作の提案自体はプロデューサーさんからいただきましたが、「マイライフ、ママライフ」は私のオリジナル脚本の企画です。

掛尾氏:「マイライフ、ママライフ」は一転して、現代の女性の抱えている問題を描くという企画になっていますね。いつも複数の企画を用意しているのですか。

亀山氏:常に持っているわけではないですけど、仕事柄企画を立てる段階から関わることも結構多いので。ちょうどその時期に1000本ノックみたいに次々企画を考えるタイミングがあったので、同時に違うことを考える脳みそはそこで出来たのかなという気はします。

掛尾氏:「マイライフ、ママライフ」から「12ヶ月のカイ」まで、間隔は空いてないですよね

亀山氏:同じ時期に作っています。

掛尾氏:自主映画の監督では、そういうことする人はいませんよね。

亀山氏:そう思いますよ私も 。

掛尾氏:どうしてそうなったのですか。

亀山氏:ご存知の通り「ゆきおんなの夏」を撮ったのが2015年の夏で、その後、2019年に「マイライフ、ママライフ」を撮ることになって、まあしばらく間が開いていたので、映画を撮ること自体が久しぶりだったんですね。しかも、それが初めての長編ということで。映画の演出についてちょっとリハビリしたいなという気持ちもあって、「12ヶ月のカイ」を撮り始めたんですよ。なので、「12ヶ月のカイ」の方がクランクインは先なんですよね「マイライフ、ママライフ」より。「12ヶ月のカイ」の話の冒頭4ヶ月分を撮って、いったん中断して、「マイライフ、ママライフ」をまとめて撮って。その後、「12ヶ月のカイ」を数か月分、季節ごとに撮りました。

掛尾氏:「12ヶ月のカイ」の発想の原点はどういうものですか。

亀山氏:人間じゃないもの、ヒューマノイドという存在に、もともと興味があったというのもあります。

掛尾氏:そこで「ゆきおんなの夏」でも描かれていた、人間の男女関係に絶望とまではいかないけれども、普通の男女関係はもう描けないのかなということで「12ヶ月のカイ」に辿り着いた?

亀山氏:そこに不信感があるというよりは、「人間と人間じゃないものの関係性」に興味があるという、そっちだと思います。

掛尾氏:反応はどうしたか。

亀山氏:日本だと、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭と、テアトル新宿での弁慶セレクションの上映日に一日上映させて頂いただけなので、まだ意見は拾えてないんですが。

掛尾氏:その前の、シナリオの段階で、これをやるとなった時はどうでしたか。

亀山氏:「12ヶ月のカイ」は自主制作なので関わっている人も少なかったです。でも、台本を書き進めるために、主演の中垣内彩加さんと工藤孝生さんとこの話をしながら、結末を決めたんですよ。キャラクターを演じている本人たちと、じゃあ、この後2人はどうなると思う、どうなりたいみたいな話をしながら。なので、最初はもっと別の物語を想定していました。

掛尾氏:あの結末は、みんなで話しながら、ああいう展開になったということですか。

亀山氏:はい

掛尾氏:「12ヶ月のカイ」は、久し振りに映画を撮るということで、リハビリのために作ったということを話してましたが、ある意味、軽い気分で撮ったということですか。

亀山氏:そうですね。あんまり思いつめて作った話ではないですね。私は、ニュースを見るのが好きで、それから、テック系のメディアのweb記事とかを見るのも好きで、以前からよく見てはいたんですよね。トヨタが近未来の街を作るとか、そういうニュースを漁るのが好きで、近未来の話しをやりたいとはずっと思っていました。

掛尾氏:「12ヶ月のカイ」と「マイライフ、ママライフ」はほぼ同時に撮影していましたが、脚本はどのように書いたのですか。

亀山氏:どちらも書いたのは私なんですが、「マイライフ、ママライフ」は撮影前のゴールデンウィークぐらいの時期(2019年)で、脚本監修に狗飼恭子さんという方に入っていただいて、何回も推敲しながら完成させました。「マイライフ、ママライフ」が先に本が上がっていたんですよ。

掛尾氏:「12ヶ月のカイ」について、ヒューマノイドと生活を始めるというのはどうやって発想したのですか。

亀山氏:これは、もともと短編としてのネタでした。これより更に2年前ぐらいに考えていたんですよね。AIの機械としゃべるみたいな8分くらいの物語を、あるオムニバス映画企画に応募するために書いていました。で、「マイライフ、ママライフ」の長編を撮るけど本当にこのままいきなり現場で演出をやって大丈夫かという気持ちになった時に、じゃあこの短編をちょっと広げて長編にしてみようと。

掛尾氏:この世界観を俳優の方々と共有するのは大変と思いますが、何か参考にした作品はあったんですか。

亀山氏:演じる時に工藤さんに見てもらったのは「ウエストワールド」(1973)という映画を基にした同名のアメリカのドラマシリーズです。そのドラマ版がすごく好きなんですよ。で、そのお芝居の仕方とかヒューマノイドの作られている中身みたいな、システムみたいなもののモデルをドラマ版「ウエストワールド」から拝借しました。
あと、ストーリーというか映画の構造として参考にしたのが、「ワン・デイ 23年のラブストーリー」(2011)という、アン・ハサウェイ主演の作品。これは23年間の7月15日、同じ一日をずっと撮っている話なんですけど、「そのときのことだけ描く」というのがなんか面白いなと思って。「12ヶ月のカイ」も、日にちは決めてないですがその出来事が起こったその時だけを切ってつないでいく形にしました。

掛尾氏:「ウエストワールド」は、映画は見ています。ドラマ版はみていませんけど何となく分かります。
ところで、このフィルミネーション・インタビューのテーマである「日本映画の海外進出について」ですが、亀山監督は「12ヶ月のカイ」で海外の映画祭を回ってきました。海外の反応はどうでしたか。

亀山氏:お客さんの見方というか、結構いろんな方がいらっしゃるので、彼らが生まれ育ってきた環境や、宗教観、価値観によって、この話のどこにフォーカスするかというのがちょっと違うなと思いました。

掛尾氏:ちょっと違うっていうのは、日本とはという事ですか。

亀山氏:今のところはそうですね。まあ、もう少し日本でも、劇場公開していろんな方に広く見ていただくと、意外と変わらないと思うのかもしれないですけど。今現在、少数の方に見ていただいた段階ですと、着眼点が違うと思いました。
10月(2021年)に、ロンドンの映画祭に行って来たんですが、その時、ロンドンに知り合いがいないので、とにかく1人でも多くの映画関係者に見て欲しいと思って、ロンドンの映画会社に、A to Zで片っ端から映画祭の上映へのインビテーションメールを送ったんです。映画祭からも関係者チケットを少しもらって。しかしやはり返事がなかったり、行けないっていう人たちからの返事は結構あったんですけね。ただそのうちの1社から、「映画祭には行けないけど日本人の監督を探している」という連絡を頂いて。で、今その会社の方とお話をしています。

掛尾氏:それを、すべて自分でやったんですよね。

亀山氏:そうですね、自力で片っ端からメールを送りましたね。

掛尾氏:こういう映画の上映があるから見に来て欲しいというメールを送った!! やるもんですね。これは、日本の映画人、亀山監督を見習わなくては。

掛尾氏:そのイギリスの会社の企画はどういうものですか。

亀山氏:今まで私がやったことないような感じですね。「ラストサムライ」とかそういう日本をあまりよく知らない方々が撮った日本ではなくて、本当に日本人が「これが日本だ」と言えるぐらい自信を持って海外に発信できるような世界観のものを撮りたいというふうにおっしゃっていて。あ、それだったら力になれるかもしれないと。

掛尾氏:何か、実現すれば、すごく大きな企画になりそうですね。私は、弁慶映画祭をやっていて、反省していることがあります。応募してくる監督たちの映画製作を応援すると、作ることを後押ししているわけですが、低予算の小規模な映画を何本も作り続けることがいいのかと反省しています。やはり、プロの監督を目指すなら、作る毎に、規模もスケールアップしなければいけないのではと思います。今の話は、そういう意味では、理想的な流れだと思います。

亀山氏:いつもスケール大きいことばかり考えたり、言ってしまったりするので、「それは次の作品じゃないだろ」って言われるかもしれないんですが、でも130年後の地球の話を撮りたいんですよ。もう超SFなんですけど。

掛尾氏:クロエ・ジャオ監督がアート系の「ノマドランド」からファンタジー超大作「エターナルズ」を作ったように。

亀山氏:そうですね。「エターナルズ」撮りたいです。「ハリー・ポッター」とか「ロード・オブ・ザ・リング」とか続き物系、一話で終わらないようなストーリーが好きなんですね。「12ヵ月のカイ」も、「ソムニウム」というスピンオフの縦型ドラマを、別の媒体で撮って配信しています。サイドストーリーを考えるのも好きなので、大きい世界観をまず作って、そこから、じゃあこれぐらいの予算だったらここが面白いかな、みたいな感じで作りたいなと思ってます。

掛尾氏:日本映画は、予算が少ないことから、どうしても主人公の心の内側や、その友人たちとの交流などが描かれることが多く、外国映画にあるような社会的なテーマが描かれない。亀山さんの作品は、人間とヒューマノイドの関係から、現代の不安を喚起させるものを感じます。

亀山氏:今、私たちがリアルに抱えている地球温暖化だとか、環境のいろんな問題とか、あるじゃないですか。それを映画で、リアルと地続きな未来像として描きたいんですよ。未来の彼らから私たちが責められるという構造の映画にしたい。

掛尾氏:それは、素晴らしい。脚本を書くべきですね。

亀山氏:脚本もそうなんですが、先にまず原作を作ろうかなと思っています。それが小説なのか、グラフィックも含めた絵本なのかという形はまだ考え中ではあるんですけど。
それとは別に、今、日本の監督が海外に出ていくというテーマでドキュメンタリー映画を撮っています。海外に挑戦している監督さんたちの体験を聞いたり、私がアメリカとイギリスに行ってきた映画祭の実録映像を組み合わせて作っています。

掛尾氏:亀山監督は、あらゆることに積極的ですね。映画祭や、そういう企画の応募に、柔軟に、臨機応変に対応している。監督によっては、十分に準備してからでないと動かない人もいます。さっきの縦型映画なんていう企画は、監督によっては拒否反応示す人もいると思います。

亀山氏:映画って、そもそもの役割としてはメディアじゃないですか。だから「伝える」ということが1番の目的であって、伝えるためにあるべき場所は映画館だけじゃないと思うんですよ。それが今、配信もあり、全世界に流れるようになって、映画がやれることはもっとたくさんあるのではと思っているんですよね。

掛尾氏:映画に対して、いわゆる映画原理主義者という、厳格な考えの人もいますが、テクノロジーの進歩とともに、あらゆる環境が変化していますからね。

亀山氏:アメリカやイギリスに行って、iPhoneで作った作品が上映されているのも見ました。もちろん、スクリーンの大画面で大音量で聴くという体験は私もすごく好きなので、そういう場所で見たいという気持ち、上映したいという気持ちはもちろんあるんですけど。でも、やっぱり、お客さんが全員そこに来てくれるわけじゃないですし、お客さんがいるところに私たちが届けるっていうのが1番 選ぶべき道だと思います。

掛尾氏:こういう環境が急変している状況で、日本の映画産業は、守らなければならないものが多くあるので、変化には消極的です。すべて変わればいいとは思わないので、残すべきもの、変わるべきものを、メリハリつけて対応しなければならないと思います。

亀山氏:日本人は、フットワーク重い人が多いと思います。ただ、私たちより下の世代はそんなにこだわってないと思いますけどね。

掛尾氏:結局、Amazon Prime、Netflix、Disney+とかの外圧に追い詰められて、変わらざるを得ない状況になってきている。

亀山氏:映画館でも最近は音楽ライブや演劇の上映をしたりとか、意外と映画の上映以外の使い方もされるようになりました。

掛尾氏:今日の亀山監督の話しを聞いていると、映画監督というより、映像クリエーターとして、あらゆるメディアで発信出来れば良いということで頑張っていきたいってことですよね。

亀山氏:そうですね。媒体は映画だけ、とは思っていなくて、というか映画だけって思っていたらできないだろうって思っているんですよ。もちろん映画は撮りたいんですけど、でもそれ以上に、やっぱり表現したいものがあるので。やらせていただける場所があるのであればどこでも出しますという気持ちです。で、それがお客さんにとって、分かりやすい、見やすい、伝わりやすい形であれば、そこにマッチすると私たちも思えれば、縦型のドラマでもやりますし。でも結果的に、長く残るのは映画だという気はしますけどね。

掛尾氏:映画館で見るっていう行為が残るのだと思う。そこでは、さまざまなコンテンツが上映されると思う。どんなコンテンツでも、大きな画面で、複数の人たちと、見た感動を共有することは、映画館でしか味わえない。

フィルミネーション登録はこちら