映画『虎穴にイラズンバ』竹中貞人監督
- 【第二弾】映画監督 / インタビュー対談

20.12.13

フィルミネーション、映画監督インタビュー対談。第二弾は、アメリカ・サンフランシスコに本社がある、公共図書館・教育機関向けのVODサービスであるKANOPYでの配信が決まった映画『虎穴にイラズンバ』『羊と蜜柑と日曜日』の監督である、竹中貞人監督との対談です。

全世界配信と日本での劇場公開決定!

掛尾氏:竹中監督との出会いは、私がディレクターを務める田辺・弁慶映画祭に出品されたことがきっかけでしたね。

竹中監督:懐かしいですね。『羊と蜜柑と日曜日』を選んでいただいて、その時に初めて掛尾先生とお会いしました。

掛尾氏:その『羊と蜜柑と日曜日』は、来年に日本で劇場公開され、今年、アメリカのVODで『虎穴にイラズンバ』の配信が決まっていると。

竹中監督:非常に嬉しいです。大阪芸術大学での卒業制作で「虎穴にイラズンバ」を制作して、東京芸大の大学院時代に作った映画が『羊と蜜柑と日曜日』なのですが、学生時代に制作した作品の公開が決まるのは嬉しいです。
やっぱりこういう時代なので、映画を見にいくこと自体がいけないことをしているような風潮がありますが、そういう状況の中でも、自分たちの映画が映画館で流れるのは嬉しく感じますね。

映画監督に必要なのはセルフプロデュース力 ー良い映画を作れるだけでは、映画監督にはなれない現代

掛尾氏:竹中さんの世代は、フィルム時代に比べると、デジタルが普及してミニシアターとシネコンが普及したことで映画が作りやすくなり、上映もしやすくなったと思います。一方で、生活の安定面では映画を作り続ける難しさはありますが、そのような映画作りの現状についてどのようにお考えですか?

竹中監督:映画を作ることは簡単になったと思います。iPhone、スマートフォンでも映画は作れますし、とにかく、映画を作ろうという人の母数は増えたと思います。ただ、ある程度のクオリティを担保した映画を作ろうと思うと、どうしてもお金はかかる。そうなった時に、自分たち若手の映画監督に求められる能力が、映画を作ることだけじゃなくて、自分もプロデュース能力を持ってお金を集められるような能力が必要になってきてるなって感じていて。だから、SNSとかできちっと宣伝できたりバズる、いろんなヒトの賛同を得るっていう風にできる能力のが、20年前の監督達と違って求められるのが感じます。

掛尾氏:それを監督一人が背負うのか、プロデューサーが1人いればいいですけど。一方で、PFFとか弁慶映画祭とか、映画祭で1つのステップとして、次のステップとして場合によっては小規模でも商業的なところとも、制作が近づいてきている。そういう事に対して、今言った自分だけでなくそういう人たちの力を借りる環境も出てくるでしょ?

竹中監督:はい。でも、いい映画を作るのう能力とは別で、そういうところも考えないと映画が作れない時代がきていると思ってます。いい映画を作れるだけじゃ映画が作れない時代が来ていると感じますね。

掛尾氏:映画監督が自己プロデュース力を持っていることは大事だと思います。昔の大手スタジオだったら、監督は監督だけしてればいい時代があったけれど、ただ、今は、作品と自分をアピールしていかないと。

竹中監督:それはすごく感じます。この料理を食べた時に、誰が作ったのかがより重要視される時代が来てる。その作った人に見合ってないと、しっくりこないという、シェフの顔が見える料理が求められる時代が来てると感じる時に、すごく怖くなります。本当に自分のやりたいこと、撮りたいこと・根底が変わらないのに、撮りたいものって年々変わっていくし。ずっと暴力を撮ることもできないですし。その表現方法が変わると結局、皿のシェフの顔が見えなくなることに怯えています。

掛尾氏:その辺は我々映画祭をやっている人間がサポートしていかないといけないところですね。

映画のビジネス化

掛尾氏:もう一つは、大学とか映像教育機関で学んだ人たち、あと個人的にやっている人たちがいますが、そういう人たちが公開して、ビジネスになる企画だけじゃなく、プロにならなくて撮りたいものだけを職に就きながら撮る人もいると思うんですけど、竹中さんはどう思われますか?

竹中監督:僕はやっぱりお金を稼げてプロなのかなって考え方があります。自分の好きなことだけやっていても、自分的にはそれは自分の好きなことでないんですよね。あくまで自分の好きな作品は自分のため作ってますけど、見る人が面白いと受け入れてくれない世界は「自分のことがやれた」とは思わないですね。

掛尾氏:それは個人的な正義感覚というか。竹中さんの作品は、自分のことであるからかもしれないけど、よくある自分探しみたいな映画でなくて、ちゃんとストーリーがあって、それを面白がらせることもできる。それは、そういう作り方を目指しているからだと。

竹中監督:僕が好きな映画が、お客さんを意識した映画というのもあるかもしれないですね。

掛尾氏:今の話を聞くと、僕らはいろんな映画祭で若いクリエーターと出会った時に、いわゆるビジネスとしての映画の環境に向いてる人と個人作家的な人がいるが、竹中さんは比較的馴染めそうな感じがします。

竹中監督:でも、割と自分は、個人主義・個人的なパーソナルなことを描く監督に比べて大衆的であると思うんですけど、そういう意味で映画祭という勝負の場になると、かなり映画としての強度は負ける部分があると感じます。

海外との違い

竹中監督:学生の話ですけど、東京芸大生だった時に南カリフォルニア大学の学生とフランスのラフェミスの学生さんが東京芸大に来て、それぞれの作品を見るというのがあったんですけど、その時に感じたのが、日本ってプロデューサー主義と作家主義の中間にあるのかなって感じました。例えば、南カリフォルニア大の作品はすごく完成度が高くて、カメラマンだけで20人、サウンドだけで12人のスタッフがいて、かと言ってフェミスの方は5人で作りましたってのがあって、そこには物語もなかったりして。なので、作家主義とプロデュサー手動で動かしていく映画作りの方法のいい部分を抽出できればいいですけど、それがいい方向に行っていない、お互いが気を遣っている映画があるのは事実ですよね。

掛尾氏:竹中さんがプロでやっていく時に、沖田修一さんとか石井裕也さんとか大学出てインディペンデントの延長のようにやっていて、なかなか大手と大学教育が繋がらないのが現実かな。それでも、今の若い監督達の作品は、今年では黒沢さんがベネチア行ったり深田こうじさんや川瀬なおみさんががカンヌ行ったり、監督との作品って世界で評価されていると。みんなインディペンデントの傾向がある人たちですけど、竹中さんが今言った日本の映画産業の二重構想でどういう方向に行きたいのか。

竹中監督:僕はアメリカの大衆向けの映画よりも、カンヌのパルムドールの方が多く見てるし、その方が好きなので、日本の監督がそのような映画を作りやすいシステムになっていけばとは思います。ただ、作り方がわからないというか。アメコミとか、大衆映画の。

掛尾氏:確かに、今の大手の映画になると、CGがものすこく多用されていて、映画の現場ですぐに即戦力になるようなのはないこともあると思うんで、そこがアメリカの大学と違うところだと思います。逆に、韓国と中国は、映画産業が大型映画化に向かった時に、大学出て日本みたいに撮るチャンスが減って来ていると。そういう意味で、日本の方が辛い環境はあるけど、恵まれていると感じますね。その点はどうですか?

竹中監督:また大学院時代の話ですけど、韓国の方が日本の大学に交換留学にこられた時に、大学を卒業した後なにするの?って話になって。いきなり韓国のプロデビューは無理で、日本でプロになることもそうそうなくて。なので、地道時に頑張りながらバイトして、映画作りの打順が回ってくるのを待つような、自分で脚本書いて掴みにいく中で、韓国の方が言ってたのが、バイトだけじゃ賃金が低すぎて、一人暮らしもできない。だから、日本みたいにインディペンデントでバイトして頑張るって考え方がないって言ってて。じゃあどうするの?っていうと、映画会社や制作会社に就職しながら、仕事が忙しい中で、合間を縫ってやっていくしかない。そういう点では、インディペンデントって挑戦できる母数が多いと感じました。それが恵まれているかどうあはさておき、日本はそういう人口は多いと感じます。

掛尾氏:テアトル新宿やロサだとか、若い人の作品が上映されるって、日本って特殊な環境だなと思いますね。

フィルミネーションから世界へ日本映画を届ける

掛尾氏:僕が期待しているのが、日本国内に眠っているのでなくて、フィルミネーションのようなプラットフォームを通じて、世界の人たちに届けば、もっと違う。アニメは先に世界に目についたけど、実写だって注目を集めることはできるんじゃないかと。そう思ってフィルミネーションには期待してますね。

竹中監督:日本の映画が海外の人に多く見られる環境って多くなかったですか?

掛尾氏:映画祭を除くとなかったですよね。

竹中監督:そういう意味では、フィルミネーションは日本でいうと先駆け的なことを、フィルミネーションが担って行くと。

掛尾氏:ネット配信の時代にどれだけ広がるか。アニメの場合は、日本のアニメと意識しないで見てたわけですよね。キャンディキャンディとか。それが配信の時代になると、観客と作品の偶然の出会い・チャンスが増えてくると思うんで。そういう中で、日本映画が海外に広がって行く一つのチャンスなんじゃないかと思いますね。そういう時に、「虎穴にイラズンバ」って日本のあの時代の学生運動って、外国の人が見た時に面白いですよね。

竹中監督:僕らが大学4年生の時に、就職活動してるフリしている人多いなと思ったのがきっかけで作った作品でした。そういう現状って、世界各国ありますし、その点ではわかりやすさもあると思います。

掛尾氏:そうそう。なので、人に見せる時に、わかりやすい話が、どの国の人が見ても面白いのかなと。『虎穴にイラズンバ』は、1970年代の学生運動で、学生運動が冷えた時代にああいうことをやっているというのは、ストーリーとして着地していると思っています。

海外での映画制作と映画配信の可能性

竹中監督:昨年、パリに旅行に行って、ポンヌフ橋を見た時に、「これがポンヌフ橋か」「カメラ回したらどんな絵になるんだろう」と気になりだして。だから、海外で映画を撮って見たいですね。ただ、今のところ、海外でしか表現できないものがないので、まだ行く必要がない。なので、自分が日本で撮った映画が海外に出て行くところは目指してやっていきたいですね。

掛尾氏:まだ先の話ですけど、若い人に撮るチャンスが増えたこと、低予算でお金さえ集めれば公開できる。一方で、その上のレベル、劇場公開するとなるとなかなか大変。今、アジアはコロナで停滞しているけど、世界の地域で言えば、東アジアと言われる対ベトナムシンガポーるの経済成長が著しくて。日本のインディペンデント映画と同規模の映画がいっぱい作られた時に、ユーロ同士で作られるように共同で作られる状況になって。その中で、自分で、タイとか台湾とかベトナムに映画を作ってみたいという思いはありますか?

竹中監督:僕自身は映画を撮れればどこでもいいってくらい映画を撮れない状況が目の前に広がっているきがするので、映画を撮れる状況ならどこにでも行くっていう状態です。それが海外なら、どの国だろうと。日本を飛び出した国外の方が撮れるって方がないように感じますけど、その点はどうですか?

掛尾氏:やっぱり深田晃司さんが「海をかける」で、フランスとインドネシアで撮ったみたいに、これからそういうものって増えてくると思うし、増やして行った方がいいと思う。日本の映画監督たちが、韓国・台湾の人たちは自国市場が小さいってこともあるけれど、海外をあまり意識しないでいるのを見ると、日本の監督を見るとあまり海外に目を向けてないように感じます。

竹中監督:逆に海外で映画を撮れるというのは遥か上のステップのように感じて。日本でも何も成し遂げてないのに、海外で声がかかる理由が見当たらないというか。

掛尾氏:飛躍した話ですけどね。そういう意味では、海外の人の目に止まるチャンスを増やしていくべきだと思いますね。

フィルミネーションを通じて、海外に配信されてよりいろんな人がネットで見られるように

掛尾氏:今、フィルミネーションを通じて、海外で見られていると思うんですけど、どんなことを期待してますか?

竹中監督:日本では数多くの方に見てもらえない環境も、フィルミネーションを通じて、海外に配信されてよりいろんな人がネットで見られるので、自分の作品が見てもらえるのは嬉しいことですし、海外の人がどういう風に思うのか知りたいです。

掛尾氏:僕たちは外国の映画を普通に見るじゃないですか。そういう意味では見るんじゃないかな。

竹中監督:このフィルミネーションの配信を通じて機会が広がればと思いますね。

掛尾氏:今度、劇場公開ですよね?

竹中監督:前年度、掛尾氏さんにはおいていただいた『羊と蜜柑と日曜日』という、藤田弓子さん主演の作品が、2021年3月よりアップリンク吉祥寺で劇場公開されますので、みなさんよかったら足をお運びください。

掛尾氏:素晴らしい作品ですのでよろしくお願いします。

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