フィルミネーション賞に輝いた、インディーズ映画の新星・宝隼也監督が問う、夫婦のあり方 「“ふたりを繫ぎ止めるもの”はなに?」 -映画『あなたにふさわしい』-

20.02.04

今回インタビューをおこなったのは、インディーズ映画界の新星・宝隼也監督。夫婦2組のバカンスでの5日間を描いた初の長編作品・映画『あなたにふさわしい』が、Japan Cuts Hollywood Film Festival 2019 にてフィルミネーション賞を受賞しました。

北米では2度目となる受賞となる宝監督ですが、映画で描きたかったことは、「ふたりを繋ぐものは何か」という “人間関係” だそう。映画『あなたにふさわしい』の制作秘話と共に伺いました。

■審査員 絶賛の「脚本」と「感情表現」 - 映画「あなたにふさわしい」制作秘話 -

−審査員のコメントでは「脚本が素晴らしい」との評価でした。脚本はどのようにしてできたのですか?

脚本の高橋知由さんとは 学校の先輩・後輩の関係で、過去作品から何度か一緒に映画を撮影していました。そこで2016年の秋ころに、次回作をつくろうとなって、お互いプロットを書き上げました。どちらのネタも、カップルのいざこざという点は、共通でした。

当時、特集上映でよくみていた影響から、僕が「バカンスものやりたい!」となっていたんです。旅先を訪れたら、何かが起こる、というストーリーです。そこから、書き直しを経て、今の脚本が出来上がりました。映画の中でも重要なポイントとなる「名前」の要素は、元々のプロットで高橋さんが取り入れていました。

実際に撮影してみると、仕上がりは大きく違っていて。撮影後のお互いの感想は「脚本とできた映像の印象が違うね」でした(笑)

−撮影の段階で、大幅に脚本を変えたのですか?

脚本で読むよりも、映像が思った以上に躍動的なんです。

たとえば、映画のクライマックスシーンでは、コテージの2階で夫婦で話し合いをする場面があるのですが、脚本上だと2人の夫婦は1階に降りてこないんです。でも、ロケハンをしてみて、2階から1階まで降りて外に出ていく展開に変更しました。役者さんがいないので、その時はできるかわからなかったのですが、カメラマンの渡邉拓海くんと話し合って、思いきってやってみました。

このように動きを加えていくことが多いので、脚本で読むよりも、躍動感がある映像が撮れました。脚本に躍動感を与えるのは得意かもしれないですね。

−「主人公の抱える闇・繊細な感情が非常に細やかに表現されている」との評価もありました。

目の前で行われている演技や、役者の生の感情をカメラに収めることには、かなりこだわってます。1カット1カットを長くまわしていたので、役者さんが疲れて演技で感情を出せないことがないように、テイクはあまり重ねません。

−感情をカメラに収める工夫がされているのですね。

そうですね。実は、スタッフ含めた役者のみなさんには、撮影現場でもあるコテージに泊まってもらいました。その方が、撮影しやすいだろうという意図でしたが、映画のシーン・役柄と同じ環境で過ごしたことも、役者さんの感情を引き出すことに繋がったのかもしれません。実際、翌日に撮影するシーンを、皆で一緒に寝る前に確認できたり、色々と便利でした。

■「まさか北米で入選するとは思わなかった」 -映画祭の応募で見えるアメリカ進出-

−Japan Cuts Hollywood で受賞された時の感想を教えてください。

ジャパンカッツにフィルミネーション賞があると知らなかったので、受賞した時は驚きました。フィルミネーション賞の概要をみて、「日本映画や若手監督を海外に広めたい」というコンセプトが素敵だなと思いました。

−北米では、ボストン国際映画祭に続き、2つ目の受賞だったのですね。

アメリカの映画祭で2つも受賞できたのは意外でした。アメリカの映画祭での入選を重ねて、海外進出の足がかりができればいいと思ってたのでよかったです。アジア系の映画は、アジア地域の映画祭で入選する印象があったので、この映画も「アジアの映画祭で流れたらいいな」くらいにしか思っていませんでした。

−海外の映画祭に応募・入選されて、気づいたことはありますか?

自分の映画にある「日本らしさ」です。映画の冒頭シーンで、「妻が重たいスーツケースを持ち歩いているのに、夫がその荷物を持たずに先を歩いている」場面があるのですが、ボストン国際映画祭で上映された時には、このシーンは会場で失笑されていました。アメリカの方にとって、男性が女性の荷物を持たないことが、ナンセンスだったんでしょうね。「日本らしさ」を意識して作った訳ではないですが、この反応をみて、表現に「日本らしさ」がが自然と現れているんだと、気がつきました。

■“ふたりを繫ぎ止めるものは何?”ー宝監督が問いかける夫婦のあり方

−映画『あなたにふさわしい』で、宝監督が描きたかったことは何ですか?

「AとBをつなぎとめるものは何ですか?」という人間関係です。劇中では2組の夫婦が出てくるのですが、「どうしてこの二人(夫婦)は一緒にいるんだろう。」ということを描いてます。

劇中の1組の夫婦には「奥さんがナッツを投げて、旦那はそれを口でキャッチする。そして、絶対に失敗しない」という物理的なルーティーンがあります。そして、もう1組の夫婦には、奥さん側が「結婚をして苗字が変わったことで、名前の響きが良くなった」と話すシーンがあります。

この「ナッツを投げて食べる」「名前の響きが良い」という事実は、一見関係がないように見えますが、形は違えど「それぞれの夫婦を繋ぎ止めるもの」という意味では共通しています。

−そのような意図があったのですね!「ふたりを繫ぎ止めるもの」を描くことで、観客に伝えたかったことはありますか?

何かを伝えたいというよりは、自分のことに置き換えて考えてほしかったです。

最近おもうのですが「人は一人でいない方がいい。誰かといるからこそ、何かが生まれる。」ということです。2人以上の人がいると、どうしても問題って生まれてきます。全てうまくいくってありえないですよね。だから、どうすればうまくいくのか、それを問いかけた映画になっています。

夫婦だけでなく、家族、友達、親子、いろんな人間関係に置き換えられることだと思います。

-過去作でも、親子の人間関係のあり方について描かれています。宝監督の映画には「人間関係」がキーワードかと思うのですが、宝監督の映画作りに共通するテーマがあるのでしょうか?

確かに、人間関係を描いた話が多いですね。高校生のときも、お店のレジで前に2人組が並んでいたのですが、「この二人は、どういう関係性なんだろう?どうしてふたりは一緒にいるんだろう?」と、自然と考えてみたり、そういう視点がありました。もともと人の関係性には興味があるからかもしれません。

−次回作はどのようなテーマを考えられていますか?

人間関係やコミュニケーションを描く作品にはしたいです。他にはジャンルでいうと、歴史・時代劇はやってみたいです。あとは家族ものになります。

−今後はフィルミネーションを通じて海外にも発信されて行きます。どんな方に見てほしいですか。

特定の誰かにみてほしい、というのはありません。自由にみて楽しめるように作ったつもりなので、いろんな人にみてほしいです。この映画を、ハッピーエンドと捉える人もいるでしょうし、そう捉えない人もいます。映画を見て色々と考えてもらえればなとは思います。

宝監督、ありがとうございました!

■作品情報

映画『あなたにふさわしい』

【物語】
飯塚美希は夫・由則に対して不満を持っている。ある日、由則の同僚・林多香子とその夫・充とともに、別荘を借りて2夫婦で休暇を過ごすことになった。しかし、現地に着くやいなや、由則と多香子は急遽発生した仕事上のトラブルを解決するため別行動に。そんななか、由則が話した仕事の思想を聞いた美希は、由則との間にある溝が埋まらないことに気づいてしまい……。

監督:宝隼也 / 脚本:高橋知由 / 撮影:渡邉拓海・浅津義社 / 音楽:重盛康平制作国:日本公式サイト
※2020年6月12日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!

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