トータスの旅2017 韓国 富川国際ファンタスティックフィルムフェスティバル受賞 他

(監督:永山正史、2016年製作/82分/PG12相当/日本)

城西国際大学メディア学部教授 / 田辺・弁慶映画祭ディレクター 掛尾良夫氏

本作は、2012年、初監督作『飛び火』がぴあフィルムフェスティバルに入選した永山正史監督の、いわゆる自主映画である。
数年前に妻を交通事故で亡くしたサラリーマンの次郎(木村知貴)は中学生の息子・登(諏訪瑞樹)と暮らしている。次郎は社会の秩序・常識に縛られ、妻の事故を仕方なかった事、加害者への怒りを心の中に仕舞い込み、ペットの亀に癒しを求めていた。登はそんな父親が疎ましく、全てに反抗した。そこへ、次郎の兄、新太郎(川瀬陽太)は婚約者(湯船すぴか)を連れて現れ、
結婚式をあげると親子を強引に連れ出した。新太郎は次郎への借金も返さず、無頼な人生を送る芸術家だ。こうして4人と亀の奇妙な旅が始まる。旅の目的地は以前、次郎が結婚式を挙げた遠い離島。道中、新太郎は喧嘩やトラブルを重ね、登も増長して次郎の常識に縛られた次郎の心は崩壊を始める。ロードムービーにありがちないくつものエピソードは、それぞれが意味を持って登場人物と融和し、彼らは成長していく。
見知らぬ女性にセックスしようと声をかけ、公園の樹木を切り倒す新太郎演じる川瀬の怪演、不敵な表情を浮かべる息子を演じる諏訪瑞樹の芝居に対し、常に受けに回らなければならない木村知貴の芝居だが、これが強風を受けながら折れない柳のようにしなやかだ。
遂に辿り着いた目的地の離島は、妻が事故死した場所でもあった。そして、次郎は居酒屋を経営する加害者と対峙。常連客と兄の新太郎を交えた乱闘となり、全裸になった次郎は“いいんだぜ〜”と歌いだす。受けから動に回った木村の演技がここで爆発する。自身を縛ってきたあらゆるものを脱ぎ捨て“いいんだぜ〜”と絶叫する木村の演技は圧巻。
第27回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にてグランプリ、第10回田辺・弁慶映画祭 男優賞 、第17回TAMA NEW WAVE ベスト男優賞を木村知貴が受賞。自主映画にして第1級の娯楽映画でもある。

フィルミネーション編集部

荒削りながらも、葛藤を、物語を、丁寧に捉えていく作り手の真っ直ぐな眼差しが見え、思いが伝わってくる。
悲しみを抱え生き方に迷っている男とその息子のわだかまった関係を、破天荒な兄シンタロウの奇行やペットの亀の失踪が、豪快に破壊し再生していく様が面白い!
随所に枠を超えたシュールな笑いが挟まれ、車窓から流れる日本の田舎の美しい風景が琴線に触れる、エモーショナルな作品。