独裁者、古賀
城西国際大学メディア学部教授 / 田辺・弁慶映画祭ディレクター 掛尾良夫氏
群馬県の伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2012で大賞に選ばれた脚本を映画化した飯塚俊光監督の長編デビュー作。2014年PFFアワードでエンタテインメント賞を受賞している。
内向的で落語の本を読み耽り、友人もいない高校生の古賀(清水尚弥)は、クラスを仕切る女子の青木と大柄な本田のイジメの的になっている。そんな古賀をかばった副島裕子(村上穂乃佳)も標的にされ、二人は学級委員に選ばれる。副島は不登校になり、古賀は担任から託されたプリントを彼女に届けるうちに心を通わせ、
手紙の交換を始める。副島の手紙を青木に手紙を奪われ、古賀はクラスの笑い者になった。そんな古賀の前に、幼い頃、いじめられている彼を助けてくれた黒柳(芹澤興人)があらわれた。古賀は黒柳から強くなるための特訓を受け始めるが・・・。
ビルドゥングスロマン(成長物語)の類型のような展開であるが、「独裁者、古賀。」の魅力は、登場人物の誰もが不完全で成長しようともがいている姿にある。
手紙を取り戻す行為を副島から“自己満”と揶揄され、その通りの“自己満”でも虚しい特訓を続けるひ弱な古賀は滑稽で切なく、だからこそその勇気に感動する。転校を決意する副島は“逃げたっていいじゃない”と古賀に言う。担任の教師、古賀の母親、副島の父親、みな二人の役に立とうとしても、うまくできない弱さを抱えている。黒柳ですら性的変質犯罪者の前歴がある。そして、絶望的な戦いを挑んだ古賀を叩き潰す青木と本田も、古賀の頬を打つ手の平に自身の惨めな現実を実感することになる。すべての登場人物に刺さるトゲが見る者の心にも突き刺さす。いじめる者も、いじめられる者も、見守る者も、誰もが勝者でも敗者でもないところに、この作品の救いがあり、観客は癒される。
そして、一見、重そうなテーマが、何回も描かれる古賀と母親の食事がいつも、うどんであったり、高校と副島の家への道を何回も走りすぎる古賀の姿など、反復する映像のリズムと、群馬県中之条のロケ地を切り取った美しい画面とによって明るく清々しいエンタテインメント映画に仕上がっている。
飯塚俊光監督は、本作の後、田辺・弁慶映画祭10周年記念作品「ポエトリーエンジェル」を監督、日本の期待の若手監督の一人である。
フィルミネーション編集部
組織や社会の中でいじめられる弱者がいかに立ち向かうかを、その心情に深く迫り、寄り添い、丁寧に作られた力作。別軸で主人公の恋の甘酸っぱさも瑞々しく描かれ、重いテーマに癒しを与え、テーマがバラエティに富みオリジナリティのある作品となっている。
ラストシーンでは人が持つ無限の可能性や希望が感じられ、心を揺さぶる。人の不器用にも熱く輝く瞬間に、私たちは目を背けられず惹かれる。現代社会を生きる全ての人に観てもらいたい作品。
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