エグゼクティブ アドバイザー 掛尾良夫氏がフィルミネーションに期待すること

世界でも稀有なインディペンデント映画という日本の文化

2000年から2019年までの20年間に、日本映画の公開本数は282本から689本と、2倍以上に増えました(別表参照)。そして、その中で、映連(映画制作者連盟)に加盟する松竹、東宝、東映、角川のいわゆる大手4社から配給される作品は80〜120本程度です。つまり、2019年では550本強のインディペンデント映画が公開されたことになります。

公開本数が増えた理由は、シネマコンプレックスの普及により、柔軟な上映形態が一般的となり、ミニ・シアターもそんな上映形態を取り入れるようになったことです。今や映画館では多様な作品が上映されるようになり、特に若い才能の作品については、各劇場が競うように積極的に紹介するようになりました。映画祭での入選作品、芸術系大学の卒業制作作品が商業劇場で上映されることも珍しくありません。

ハリウッド映画の世界的なシェアの拡大でヨーロッパの映画産業はジリ貧傾向にあります。自国の映画産業の活力がある中国、韓国の映画産業では、企画が大型化して、低予算映画の製作は縮小しています。アメリカにもインディペンデント映画というジャンルはありますが、製作費は500万〜1000万ドル(5億円〜10億円)と、日本の大手作品と同程度のバジェットです。

日本では数百万円から1億円以内のバジェットで500本くらいの映画が製作されています。世界では、才能のある若い人材がなかなか商業デビューできないなかで、日本では若い人材の作品が劇場公開されています。そして、そのなかで、評価の高い作品は世界の映画祭にも出品されています。つまり、日本のインディペンデント映画は、世界でも特異な状況にあります。私は韓国、香港、中国の映画祭にたびたび参加する機会がありましたが、それらの国の若いクリエーターのなかには、この日本の状況を羨ましく思う人も少なくありません。

残念なこと

この多様なテーマで作られた日本のインディペンデント映画が、海外の映画祭のキュレーターと一部の熱心な映画ファンにしか届いていないことです。海外の映画ファンの身近に日本映画が届けば、もっともっと日本映画のファンが増えるはずです。今や世界で楽しまれている日本のアニメは、当初はテレビ放送で広がりました。「キャンディ・キャンデイ」は1970年代、フランス、イタリア、ドイツでは、子供達は日本アニメと知らずに親しみ、その延長に今日があると思います。

フィルミネーションが目指すこと

フィルミネーションは、日本の若い才能ある人材とその作品を世界に伝えたいと考えています。30年前は世界のトップを走っていた日本も、今や経済は低迷し、閉塞感のなかで、若い映画人は様々なテーマで現代の問題を描いています。家族、友人、会社での人間関係、環境問題、LGBTQ、グローバリゼーション、親世代の介護などに向き合うことで抽出された切実な思いは、世界の同世代の若者たちの共感を得ると思います。若い監督たちと描かれるテーマは、これからの世界のロールモデルになるはずです。

また、伝統ある日本映画には膨大な埋蔵量があり、まだまだ世界には紹介されていない作品が多数あります。そうした作品も、紹介して行きたいと考えています。

わざわざ日本映画を映画祭に見にいくほどのファンではない、しかし、映画が好きな平均的な映画ファンにも、日本映画の魅力を伝えたいということが、フィルミネーションの役割と考えています。

●日本映画公開本数
2019=689、2018=613、2017=594、2016=610、2015=581、2014=615、2013=591、2012=554、2011=441、2010=408、2009=448、2008=418、2007=407、2006=417、2005=356、2004=310、2003=287、2002=293、2001=281、2000=282

エグゼクティブ アドバイザー 掛尾 良夫
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